暗屯子の部屋

ミカンと温泉の街に潜み、IgA腎症と戦いながら研究と釣りに明け暮れている、ヒゲとメガネとは私のことです。

帰省(後編)

今回の帰省の最大の目的は法事である。
断じて釣りではない(はずだ)。
 
早朝の釣りを終え、急いで礼服に着替えて法事が行われるお寺に向かう。
お寺のある高台から地元の街を眺める。

地元の街は、漁業が中心の小さな町である。
自分が大学を卒業する頃から過疎化が急激に進んだ気がする。
さいころに通った駄菓子屋も、揚げたてのコロッケを買ったお肉屋も、お遣いに行った酒屋も今は店を閉じている。
街並みが変わるのは当然とはいえ、寂しいことこのうえない。
 
お寺の境内にある釣鐘を見てみると、釣鐘の歴史が刻まれていた。

「宝暦三癸酉歳八月上旬初鋳」とある。
「宝暦三癸酉歳」とあるのは、おそらく1753年頃のことだろう。
つまり、初代の釣鐘は江戸時代中期に作られたことになる。

「大正七年??五月下旬改鋳」
「昭和十七年拾壱月五日供出」
「昭和弐拾弐年丁亥参月中旬新鋳」
それが、大正時代に作り直され、昭和になって供出したことになる。
「供出」とは、先の大戦時の金属回収令(昭和十六年)によるもので、金属不足を解消するためにお国に差し出したことだと思う。
そして今、目の前にあるものは昭和二十二年に作り直されたものだと思う。
 
こんな小さな街でも少なくとも江戸時代の中期から存在しており、お国のために釣鐘を差し出していたことがわかる。
その街はこれからどうなっていくのだろうか。
この街を離れた自分には意見を言う資格はない。
ただ、もう少し頻繁に帰省しようと思った。